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山形地方裁判所 昭和37年(わ)77号 判決

被告人 深瀬晋次 外二名

主文

被告人深瀬晋次を懲役一年六月並びに罰金十万円に、

被告人深瀬あいを懲役一年並びに罰金十万円に、

被告人寒河江静江を懲役一年六月に

各処する。

被告人三名に対しこの裁判確定の日からいずれも三年間右懲役刑の執行を猶予する。

被告人寒河江静江を右執行猶予期間中保護観察に付する。

被告人深瀬晋次、同深瀬あいが右各罰金を完納することができないときはいずれも金千円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。

押収にかかる塩酸モルヒネ液小量(証第一号)はこれを被告人深瀬あいから没収する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人深瀬晋次は医師で天童市大字山元二千三百九十四番地において深瀬医院なる名称のもとに医師を開業し、山形県知事より麻薬施用者の免許を受けている者、被告人深瀬あいは同人の妻、被告人寒河江は麻薬中毒者であるところ、

第一、被告人深瀬晋次、同深瀬あいは共謀のうえ、単一且つ継続せる犯意のもとに、昭和三十四年一月七日頃より同三十七年四月二十五日までの間、約千百余回位に亘り、前記深瀬医院或いは山形市香澄町字木の実小路二百九番地の被告人寒河江方において、寒河江の中毒症状を緩和するため、麻薬である塩酸モルヒネの水溶液合計約千二百CC位を同人の身体に注射し、もつて不正に麻薬を施用し、

第二、被告人深瀬あいは麻薬取扱者、麻薬診療施設の開設者又は麻薬研究施設の設置者でもなく、且つその他法定の除外事由がないのに、昭和三十七年四月二十六日、山形市所在山形警察署において麻薬である塩酸モルヒネを含有する溶液約二CC(証第一号)を不法に所持し、

第三、被告人寒河江は麻薬施用者でもなく且つ法定の除外事由がないのに、単一且つ継続せる犯意のもとに、昭和三十四年一月七日頃より同三十七年四月二十五日までの間、約千百余回に亘り、前記深瀬医院或いは前記自宅において、自己の中毒症状を緩和するため、相被告人深瀬晋次、同深瀬あいの両名に麻薬の施用方を依頼し、(判示第一掲記のごとく)右両名をして麻薬である塩酸モルヒネの水溶液合計約千二百CC位を自己の身体に注射せしめ、もつて不正に麻薬を施用し

たものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人深瀬晋次、同深瀬あいの判示第一の所為は包括的に麻薬取締法第二十七条第三項、第六十五条第一項、罰金等臨時措置法第二条、刑法第六十条第六十五条第一項に、被告人深瀬あいの判示第二の所為は麻薬取締法第二十八条第一項、第六十五条第一項、罰金等臨時措置法第二条に、被告人寒河江の判示第三の所為は麻薬取締法第二十七条第一項、第六十五条第一項、罰金等臨時措置法第二条に各該当する。そこで被告人深瀬晋次につき情状により懲役刑と罰金刑を併科すべく、所定刑期並びに罰金額の範囲内において同被告人を懲役一年六月並びに罰金十万円に処し、被告人深瀬あいにつき情状により懲役刑と罰金刑を併科すべく判示第一の罪と第二の罪は刑法第四十五条前段の併合罪にあたるので懲役刑につき同法第四十七条第十条に則り犯情の重い判示第一の罪の刑に併合罪加重をなし、更に罰金刑につき同法第四十八条第二項に従い併合罪加重をなし、その刑期並びに罰金額の範囲内において同被告人を懲役一年並びに罰金十万円に処し、また被告人寒河江については所定刑中懲役刑を選択しその刑期範囲内において同被告人を懲役一年六月に処し、犯情により被告人等に対しいずれも右各懲役刑の執行を猶予するのが相当と思慮されるので、刑法第二十五条第一項第一号を適用して被告人等三名に対しこの裁判確定の日よりいずれも三年間右各懲役刑の執行を猶予することとし、被告人寒河江については同法第二十五条の二第一項前段を適用して右猶予期間中保護観察に付し、被告人深瀬晋次、同深瀬あいに対する各換刑処分につき刑法第十八条を、被告人深瀬あいに対する没収につき麻薬取締法第六十八条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 前田一昭)

(参考)判示第一および第三の事実についての起訴状記載の公訴事実および罰条

公訴事実

被告人深瀬晋次は医師で、肩書住居地において医院を開業し山形県知事より麻薬施用者として免許を受けている者であり、被告人深瀬あいは同人の妻、被告人寒河江静江は麻薬中毒者であるが、三名共謀の上昭和三十四年一月七日頃、天童市大字山元二三九四番地の深瀬医院において、右被告人寒河江の中毒症状を緩和するため、同人に対し被告人深瀬晋次、同深瀬あいにおいて麻薬である塩酸モルヒネの水溶液一CCを注射し以つて不正に麻薬を施用したほか右三名共謀の上単一且つ継続せる犯意の下に昭和三十四年一月九日頃より昭和三十七年四月二十五日頃までの間前後一、〇二八回に亘り前記深瀬医院或いは山形市香澄町字木の実小路二〇九番地右寒河江静江方において前同様の目的で同人に対し被告人深瀬晋次同深瀬あいにおいて麻薬である塩酸モルヒネの水溶液一、一七一CCを注射し以つて不正に麻薬を施用したものである。

罪名罰条

麻薬取締法違反 同法第二十七条第三項 第六十五条第一項

刑法第六十条

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